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糖尿病と低血糖

監修 日本大学医学部内科学系 糖尿病代謝内科学分野
石原寿光先生

高血糖なのに低血糖?

糖尿病は血液中のブドウ糖濃度「血糖値」が高くなり、「高血糖」状態が続くことを言いますが、糖尿病の治療中は逆に「低血糖」に陥り、「あくび」「不快感」「冷や汗」などの症状をはじめ、重篤になると「意識障害」から、「糖尿病性昏睡(こんすい)」に陥ることもあり、大変、危険です。
「低血糖」は血糖値が60mg/dl以下(または50mg/dl以下)になったときのことをいいますが、血糖値の高い人や急激に血糖値が下がったときには、100mg/dl程度でも「低血糖」の症状が出ることもあるようです。
本来、「高血糖」状態が続くはずの糖尿病に、「低血糖」の症状はどうして起きるのでしょうか。起きる原因や、症状、「低血糖」になったときの対処法などについて、ご紹介します。

高血糖なのに低血糖?

インスリンと血糖値

インスリンは血液中のブドウ糖をエネルギーに変えることで、血糖値が上がらないようにしているホルモンです。糖尿病の人はこのインスリンの出が悪くなったり、よく働かないために、正常なコントロールができなくなり、血糖値を下げることができません。
そこで、糖尿病治療では、このインスリンというホルモンを出すように促す薬やインスリンそのものを投与することで、上がり続けている血糖値を下げるように薬物治療を行います。
薬物療法には飲み薬とインスリン注射があり、服用することで内部からのインスリンの分泌力を強めたり、インスリン注射によって、体外から不足するインスリンを補充します。
足りないインスリンを補うことで、高いままの血糖値を下げて、血糖値のコントロールを行うことができるわけですが、ひとが必要とするインスリンの量は常に一定ではないところに、「低血糖」に陥る原因があります。

インスリンと血糖値


インスリン過多

インスリン過多

ひとが必要とするインスリンの量は、1日の中でもたえず、変化します。食事の量の増減や食事と次の食事の間の間隔、運動した量の多さなど、そのときどきに変化するにもかかわらず、一定の量の薬を服用したり、インスリンを投与しているので、時間帯によって必要とする以上のインスリンが作用してしまい、そのときに血糖値が下がり過ぎてしまうことがあるわけです。
つまり、必要とされるだろうと思われるインスリンを用意したにもかかわらず、そこまで必要としなかった場合、インスリンが働き過ぎて、今度は血糖値を過剰に下げてしまうので、低血糖に陥るケースが出て来てしまうのです。
健康な人は、血糖値が下がると拮抗ホルモンを分泌することで、血糖値を正常の70mg/dl以上に保とうとする働きがあるのですが、糖尿病の患者さんの場合、インスリンの分泌が悪くなっているのと同様に拮抗ホルモンの分泌もよくないことが多いので、さらに低血糖を促してしまうことにもなるのです。


低血糖に陥る具体的な原因は?

具体的原因には次のようなものがあります。

  1. 食事の量が少なかった。
  2. 食事をするのがいつもより遅くなった。
  3. 決められた間食を食べなかった。
  4. 運動や労働を多量にこなした。
  5. 朝食前などの空腹時やインスリン効果の強い時間帯に激しい運動をした。
  6. 治療薬やインスリンを多量投与した。
  7. 治療薬の効き目を高めるほかの薬剤を併用した。
  8. 飲酒をした。(※アルコールを分解するためにはブドウ糖が使われるので血糖値を下げます。

低血糖に陥る具体的な原因は?


低血糖の症状

血糖値がコントロールできずに高血糖状態が続くと、糖尿病の合併症が進んで行きますが、低血糖では、体が必要とする栄養素が足りなくなることで、次のような症状が現れます。

低血糖の症状
  1. あくびや不快感、考えがまとまらない、急激な空腹感
  2. だるい、眠気、目がちらつく、頭痛、無気力
  3. 発汗、手足のふるえ、体が熱く感じる、動悸、不安感、吐き気
    【自律神経症状】血糖値の下がりすぎで起きる自律神経の症状で、血糖値低下の警告を行っている状態。
  4. 集中力の低下、錯乱、脱力、眠気、めまい、疲労感、ろれつが回らない、ものが二重に見える
    【中枢神経症状】ブドウ糖の欠乏で脳細胞が正常に働かなくなりつつあることを示す状態。
  5. 【意識障害】自分でどこにいるかわからない状態。
    この状態になると、自分の力では対処することができない。
  6. 【低血糖昏睡】車を運転中に昏睡を起こすと事故を起こしたり、歩いているときに昏睡を起こして思わぬけがをしてしまうこともあって危険。さらに最悪の場合はそのまま死亡することも。

自分の低血糖の特徴は?

ブドウ糖は体の中でさまざまな働きをする、とても大切な栄養素で、特に脳には必要不可欠のエネルギー源。筋肉や内臓はブドウ糖以外のエネルギー源も使って働くことができますが、脳はブドウ糖しか使えません。そのために低血糖になってしまうと、脳が活動できなくなって、「昏睡」という最悪の状態を招いてしまうことになってしまうのです。
ただし、先に上げたような症状は、だれしもが同じように段階を追って出現するわけではないので、その点も気をつけなくてはならないところです。
もし、低血糖を経験したことがあったら、自分の症状の特徴をよく記憶して、次に現れるようなことがあったら、すぐに対処できるようにしなければなりません。
また、自律神経の症状や中枢神経の症状に続いて、意識障害が現れる低血糖の値も、もともと血糖値のコントロールが悪い人の場合は、健康な人なら問題のない数値でも、低血糖の症状が出てしまうことがあります。さらに先に低血糖の症状の重い状態を経験してしまった人の場合、前触れがなく、いきなり意識障害が出てしまうこともあるので要注意です。
いきなり低血糖の重いレベルである意識障害が起きることを「無自覚性低血糖」と呼びますが、これは糖尿病の合併症で自律神経が障害されているときにも起きやすいようです。

対処方法

低血糖が起きてしまったとき、多くの場合は、先に上げたような冷や汗やめまいが起きますので、サインが出たらすぐに対応するようにして、一度、経験した人は自分の「これは」というサインを見逃さないようにして、具体的には次のような対処をします。

  • すぐに糖分をとる。吸収のいい糖質10~15g(ブドウ糖・砂糖・ジュース)をとって安静にし、10~15分ほど待ってもよくならないようなら、さらに同量を追加してとる。
  • 症状が治まったら、食事がまだの場合は食事をとり、そうでない場合はご飯やパン、ビスケットなどの炭水化物を食べる。

対処の注意点

低血糖を起こしたとき、車を運転している最中なら、安全を確認した上で、すぐに路肩に停車してから糖分を摂取します。我慢して運転を続けると、事故の原因につながって、とても危険です。
外出時はいつもブドウ糖や砂糖を持ち歩くようにして、すぐに手の届くところに持っているようにしましょう。

対処の注意点

アメや氷砂糖でも血糖値は上がりますが、即効性があるのはやはりブドウ糖です。ブドウ糖がないときはブドウ糖を含む市販のジュースを飲むようにします。糖分が含まれていない人工甘味料やダイエット飲料では効果が期待しにくいので、注意してください。

また、低血糖の症状が改善しないからといって、多く取り過ぎないようにしてください。後で高血糖になることがありますので注意が必要です。

対処の注意点


家族や身近な人の対応

低血糖に陥って意識があるうちに対処できればいいのですが、突然の意識障害などに陥った場合、自分では何もできなくなってしまいますから、糖尿病の薬物療法をはじめたら、家族や職場の人などの身近な人に「低血糖」に陥ったときの対処をお願いしておくことが大切です。
様子がおかしい、呼びかけても返事をしないなどの異常を見つけたら、まず、低血糖が疑われることをまわりのひとたちに知っておいてもらいましょう。
まず、水にブドウ糖を溶かしたものを飲ませてもらい、それでもよくならず、意識が悪くなってしまったときには、すぐに救急車で病院に運び、ブドウ糖の静脈注射をしてもらえるようにお願いしておいてください。
意識レベルが低下するほどの低血糖の場合、救急車が来るまでの応急処置として、家族、同居者の方が、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗り付けてください

家族や身近な人の対応


糖尿病患者用IDカード

もしも、ひとりで行動しているときに、低血糖で倒れてしまったら・・・。
そんなときでも適切に対応してもらうために携帯しておきたいのが、自分が糖尿病であること、低血糖で倒れた場合は糖分の補給をしてほしいといったことなどを書いておく「カード」です。
カードは「糖尿病患者用IDカード(緊急連絡用カード)」と言って、プラスチック製で胸ポケットなどに入れておけるサイズ。糖尿病関連企業の協賛で(社)日本糖尿病協会が発行しているもので、無料で入手できますので、主治医の先生に相談してください。
自作したいときは、名刺大の厚紙に下記のように書いて持っていても構いません。

糖尿病患者用IDカード


低血糖の予防

低血糖になりたくないと、糖尿病の薬やインスリンの投与をちゅうちょしては、本来の高血糖から来る糖尿病の合併症を進めることになってしまいます。
低血糖になるのは、ほとんどの場合、これまでにあげたような原因がありますので、それらをしないように心がけ、体の必要とするインスリンの量と薬や注射で補うインスリンの量のバランスをくずさないように規則正しく生活をすることが大切です。
決まった時間に指示カロリーに従って食べ、決まった時間に決まった量の薬を服用または注射し、早朝や空腹時を避けて適度な運動をすることを心がければ、バランスを崩して低血糖を引き起こすことは予防できます。
どうしても決まった時間に食事ができないときなどは、通常の時間に軽く炭水化物をとっておいたり、スポーツや労働などでいつもよりも運動量が多くなることがわかっている場合は、事前に指示カロリー以外の捕食をとることも低血糖の予防になります。
ただし、その場合でも指示カロリー以上の食事や捕食と言い訳して間食をたくさんとるのでは、糖尿病治療としては問題です。
どういう場合に低血糖になるかということを十分気をつけて、日々の生活をバランスよく送ることで、血糖コントロールがうまく行き、糖尿病に効果的な健康的な生活が送れるように努力したいものです。

低血糖の予防